体操鉄棒の下り技「伸身の新月面(しんしんのしんげつめん)」はこんな技!
体操の鉄棒でよく聞く「しんしんのしんげつめん」って何?
まずは「しんしん」とは
「しんしん」とは漢字で「伸身」と書きます。
スマホで「しんしん」を変換すると「伸身」ではなくて「心身」と出ることが多いですが、「心身」じゃなくて「伸身」です。
「伸身」とは漢字の意味通り「身体を伸ばす」という意味です。
これは技をする時のからだの体勢を表す言葉で、技をするときの体勢は大きく3つありそのうちの1つです。
その3つとは「抱え込み」「屈伸」「伸身」の3つです。
抱え込み
抱え込みとは体を丸め膝を抱え込む姿勢です。
ちょうど体育座りのような姿勢ですね。(地方によっては三角座りとも呼びますが)
体を回転させるときは遠心力の関係で体を小さくしたほうが回りやすいため、抱え込みが一番回転しやすい姿勢になります。
屈伸
屈伸とは体を「くの字」に曲げる姿勢です。
腰を90度以上曲げ、膝が伸びている必要があります。
伸身
伸身とは体をまっすぐに伸ばした姿勢です。
(実際には完全にまっすぐでなくてもよいのですが)
体勢で何が違う?
体勢によって回りやすさが異なります。
体操をやったことない方でも感覚でお分かりになるかと思いますが、体は小さく丸めたほうが回りやすくなります。そのため、伸身>屈伸>抱え込みの順番で難易度が高くなっています。
新月面とはなに?
これで「伸身」の意味はお分かりいただけたかと思いますが、次は「新月面」をご説明します。
ですが、「新月面」の前に「月面」のご説明をします。
「月面」とは「月面宙返り」のことを言い、正確には「後方抱え込み2回宙返り1回ひねり下り」のことです。
「後方2回宙返り1回ひねり下り」というと難しそうに聞こえますが、分解して考えると「抱え込みの姿勢で後ろに2回まわりながら1回ひねって着地をする」ということです。
この技を世界で最初にやったのが、最近パワハラ疑惑で話題となってしまった「塚原光男」さんです。
1972年のミュンヘンオリンピックで塚原さんはこの技を披露し、世界から絶賛されました。また、体操では国際大会で初めて成功させた人の名前が技につくことが多く、「月面宙返り(Moonslat(ムーンサルト)とも言います)」は「ツカハラ」という名前がついています。
余談ですが、体操に興味がない人はパワハラ疑惑の件から塚原さんへの印象が良くないかもしれませんが、塚原さんは体操界で本当にレジェンドというべき人物で、「月面宙返り」以外にも塚原さん名前が付いた技が存在します。
そんな「月面宙返り」ですが、なぜ発表者の名前である「ツカハラ」ではなく「月面宙返り」と呼ばれるのでしょうか。
なぜ「月面宙返り」?
なぜ「ツカハラ」が「月面宙返り」と呼ばれるのでしょうか。
この「月面宙返り」は1972年に発表されましたが、この3年前の1969年にアポロ11号が月面に着陸し、月の石を持って帰りました。
これにより世界中で宇宙開発競争が始まり、みんが宇宙を意識するようになったのです。
そんな世界情勢の中、塚原さんが発表した「後方2回宙返り1回ひねり下り」を見て、「まるで重力の弱い月面を舞っているようだ」みんなが驚きました。そして、ローマ五輪金メダリストの竹本正男が「月面宙返り」と名付けた、というわけです。
「新月面」の「新」とは
「月面宙返り」の意味はお分かりになったかと思いますが、「新月面」の「新」とは一体何なのでしょうか?
「新月面」は「新」とついているだけあって、「月面」よりも「新しい宙返り」なわけです。
「新月面宙返り」を正確に表記すると「後方抱え込み2回宙返り2回ひねり下り」になります。つまり「抱え込みの姿勢で後ろに2回まわりながら2回ひねって着地をする」というわけです。…よくこんなに回れるものだなと感心してしまいますよね。
この「新月面宙返り」を初めて行ったのは、1976年のモントリオールオリンピックで金メダルを取った「梶山広司」さんです。なので、「新月面宙返りは」は「カジヤマ」と命名された…と言いたいところなのですが、なぜか「新月面宙返り」は「カジヤマ」とは呼ばれていません。このあたりはまた別の機会にご説明したいと思います。
「伸身」+「新月面宙返り」=「伸身の新月面」
というわけで、「伸身の新月面」とは「伸身の姿勢で行う月面宙返り」、正確に言うと「後方伸身2回宙返り2回ひねり下り」というわけです。
この「伸身の新月面」ですが実は正式名称があります。それは「ワタナベ」です。
「ワタナベ」という響きで分かる通り、この技を世界で初めて行ったのは日本人の渡辺さんです。
「ワタナベ」を開発した渡辺光昭さんは1985年に世界で初めてこの技を発表しました。
本当は「ワタナベ」と呼ばれるこの技はなぜか「伸身の新月面」という名前で呼ばれることが多く、個人的には先人の選手へのリスペクトに欠ける気がしてあまり良い気がしません。ですが、アテネオリンピックでの名実況「伸身の新月面が描く放物線は栄光への架け橋だ!」はやはり「伸身の新月面」だから映える気もしますし(「ワタナベが描く放物線は栄光への架け橋だ」だと富田さんじゃなくて渡辺さんが演技しているみたいになっちゃいますもんね。)、この名実況が生まれてしまった(?)ため、今後はやはり「伸身の新月面」と呼ばれていくんだろうなと思います。