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『アンナチュラル』第2話・三澄ミコトの練炭無理心中の論文内容はコレ!!【ネタバレ】

『アンナチュラル』UDIラボの法医解剖医・三澄ミコト(石原さとみ)が書いた、浦和市で起きた練炭による「一家四人無理心中事件」の症例報告論文の詳細はコレ!!

 

症例報告
日教 中医誌2017:10:252-8
練炭による殺人および自殺に関する検討ー浦和市で起きた一家四人無理心中事件の検討ー
三澄ミコト

要旨:
一酸化炭素が身体に及ぼす影響を算出し、練炭事故・事件の解明と防止策を検討する企図である。一酸化炭素(CO)による死亡は、すべての化学物質による中毒死の中で最も多い。2000年から2005年までの自殺による年間の志望者総数は3万人前後と大きな変化はないにもかかわらず、「その他のガス及び蒸気」による自殺者は2003年から前年の2倍以上になり、2005年には自殺原因の約15%を占めている。この自殺原因の変化はインターネットによる集団ガス自殺の呼びかけとして社会問題になっている。以上の死亡者数に対して、治療を受けた患者や後遺症のみられる者の数ははるかに多いと予測される。これらのことを受け、実在する事件を基に一酸化炭素中毒が身体に及ぼす影響とその防止策を考察していく。
Key words:carbon monoxide(CO) poisoning. murder-suicide. suffocation. delayed neurological sequelac

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読みながら久部六郎(窪田正孝)の独り言。
「自分(三澄)のことか…」
事故現場に見取り図が映る。一人、論文を読み上げる。
「事件を起こしたの母親である。」
「母親は睡眠薬を紅茶に混ぜ、夫と男児を眠らせたあと、部屋で練炭を炊いて一酸化炭素を充満させた。女児が寝ていた隣室にも一酸化炭素が少しずつ流れ込んでいった。発見された時、父、母、男児はすでに心肺停止。隣室の女児は昏睡状態にあったが、病院に搬送され、一命をとりとめた。」

ここからまた、劇中に映った論文の詳細です。→
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Ⅱ.症状
練炭から発生する一酸化炭素とは、燃焼する際に酸素が不十分な環境で不完全燃焼を起こすと発生する気体である。炭素を含む物質が燃焼すると二酸化炭素が発生するが、酸素が不足している状態で不完全燃焼を起こすと一酸化炭素が発生する。一酸化炭素が人体に流れ込むことで、通常であると血液中のヘモグロビンは酸素と結びついて全身に酸素を運ぶ役割もしているが、酸素に比べて200倍以上もヘモグロビンと結びつきやすい性質を持つのが一酸化炭素である。このため一酸化炭素が血中に流れ込むことでヘモグロビンは酸素と結びつくことができず、血液の酸素運搬能力が低下し、酸素不足に陥る。それが一酸化炭素中毒だ。(図2)
CO中毒が重度であれば致死的となるが、救命された場合では脳障害が主な臨床的問題となる。COが脳障害を引き起こすメカニズムは複雑であるが、COによる低酸素に陥った脳では、低酸素低血圧による脳虚血やCOがチトクロムAやA3に結合することやチトクロムC酸化酵素減少に伴うミトコンドリア代謝障害による細胞呼吸障害などCOによる直接的な障害と、興奮性アミノ酸レベルの上昇、酸化ストレス、細胞壊死やアポトーシス、後発性炎症、脂質過酸化による大脳白質脱髄性変化などの間接的な脳障害が引き起こされる。
CO中毒による脳障害の程度や予後を中毒急性期に評価する手段は現時点でないとされている。CO中毒による脳障害の発症様式は大きく分けて、中毒直後から慢性期まで症状が継続する持続性脳障害、中毒後に無症状な時期をおいて2~3週間後に神経精神症状を劇的に発症する遅発性脳障害の2つがある。どちらの様式においても症状は軽症から重症まで多彩であり、軽度の人格変化や動作緩慢から高次脳機能障害、パーキンソニズム、無動性無言などが起こりうる。これら多彩な神経精神症状が単独あるいは重複して出現し、個々の症例毎で異なっているため、治療効果の評価を症例間で比較することは非常に困難となっている。

Ⅲ.治療
CO中毒の急性期における治療は、速やかにCOHbを減少させることが目的となる。COHbの半減時間は常圧大気中では約320分とされているが、常圧下100%酸素吸入によって半減時間は1/5に短縮される。よってCO中毒急性期における標準的治療は、速やかにCO暴露現場からの搬出、つぎに100%酸素吸入(normobaric oxygenation.NBO)。そして全身管理とされている13)。
高気圧酸素治療(hyperbaric oxygenation,HBO2)はNBOに比べて、半減期は約1/3に短縮されると同時に、血中溶存酸素は約3倍に上昇し、COHbを速やかに低下させて低酸素脳症を是正するとされており、CO中毒急性期における初期治療として有効性が期待できる。

Ⅳ.練炭による一酸化炭素中毒の防止に関するNBO-HBO2比較試験
多くの非ランダム化試験ではHBO2が持続型および遅発型脳障害の発生を抑制するとされているが、HBO2を施行しうる施設が限定される。治療コスト、HBO2による肺の加圧損傷、肺浮腫、痙攣発作などの有害事象の可能性など、HBO2には負の一面があり、その使用にあたっては確たる治療効果のエビデンスが望まれる。
2011年に更新されたCochrane Review によれば、CO中毒に対するHBOの効果を検討したランダム化比較試験(RCT)は6つの報告があり、メタアナリシスではオッズ比0.78,95% 信頼区間は0.54-1.12であり、HBO2とNBOの効果に有意義な差異はないという結果となった。しかし、このCochrane review12)の中で記載されているが、これらすべての報告は多少なりともバイアスを含む問題点が存在していることを指摘されている。Annane ら、Raphael ら、Mathieu らの3つの研究は、軽症とおもわれるCO中毒症例のみを対象としており、しかもMathieu らの報告はアブストラクトのみでフルの論文形式をとっていない。

一酸化炭素濃度→吸入時間と中毒症状
0.04%→1~2時間で前頭痛や吐き気、2.5~3.5時間で後頭痛がします
0.16%→20分間で頭痛・めまい・吐き気がして、2時間で死亡
0.32%→5~10分で頭痛・めまい、30分間で死亡
1.28%→1~3分間で死亡

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最後に六郎が呟く。
「あと30分発見が遅ければ脳に障害が残ったと推測される…。」
それを後ろから覗き見してきた法医解剖医の中堂系(井浦新)。
「絶望するには充分だな。」