漫画

いくえみ綾実写ドラマ『あなそれ』漫画4巻 あらすじ&ネタバレ!!

いくえみ綾原作漫画『あなたのことはそれほど』④巻のあらすじ&ネタバレも!!


実写版『あなたのことはそれほど』大反響ですね。
眼科の先生や、涼太の友人で意味ありげな山崎育三郎さんなど、オリジナル要素はありつつも、意外にちゃんと原作通りだと思います。本当は麗華には妹がいますが、今のところ出て来ていませんが。
ではお久し振りの④巻あらすじ&ネタバレ行っちゃいます!

④巻section.15

占い処で順番待ちをする渡辺涼太と、その妻・美都。
黙って座り込む美都とは対照的にべらべらと堰を切ったように話し続ける涼太。
「人生には誰にでもバイオリズムってものがあるんだ」
「それはいつも山・谷を繰り返す」
「どんな人でも最終的には人生の帳尻があうように出来ているんだ」
「僕たちは今二人して谷底なんだ」
ふいに順番を呼ばれ、しゃきっと立ち上がる美都。隣の男はいまだにうだうだうだうだ。
「みっちゃん、僕は行かないよ、こんなのがなんの役に立つっていうんだ。なぜ僕たちのことを赤の他人に…」
真剣な顔を寄せる二人に向けて、占い師は言った。
二人の相性はまずまず。結び付きは強い。別れるか別れられないかはその時次第、と。
意外に話に食いつく涼太。
「心が辛くなってるね、どうしようもなく行き詰まっている」占い師の言葉に感情的になる涼太。
「そんなの誰だって言える…、占いってのは、辛くて行き詰まってるから来るんだ」
「なのにあんたは人の言う言葉が聞こえない、聞こうとしない」
占い師の言葉も途中のまま、荒々しく部屋を出ていく涼太。追い掛ける美都。
「あんなものにお金を払うなんて、バカげてる…」
ぼくの名前はね、おじいちゃんが付けてくれたんだ。
美都に背中を向けたまま話す涼太。一人先を歩き続ける。
画数なんて考えなかったのに結構いい名前なんだ。「逆転大成功で金運を掴む」「希望が全て叶う」とかね。すごいでしょ?
目も合わせない美都。
ふと思い立った涼太は目の前の姓名判断のコーナーに入る。
そこへ書いて出した名前は「有島光軌」。驚きを隠せない美都。
姓名診断師は言った。
すごい!最強の名前だよ!なにをやってもうまくいく!健康も人気も配偶者にも恵まれ、晩年も安泰で強運が自分から舞い込んでくる、と。
うっすらと口元に笑みをつくる涼太。
「バカバカしい…」
一人で出ていく涼太。
姓名判断の紙、「有島光軌」の文字を見て、笑いがこみあげてくる美都。涼太に腕を引かれ、店を出た。
離して!
帰ろう。
あ、霊感占いだ、スピリチュアルだよ!
帰ろう…
いいじゃない、みて貰おうよ!
涼太に腕を強引に引かれる美都。
ねぇっ!あたしたち、もうどうしたらいいか…
みっちゃん!!
美都を抱き締める涼太。
涼太に強く抱き締められる美都。
涼太の匂い。懐かしい、ちゃんと二番目に好きだった人の。
ゆっくりと涼太から離れる美都。
「離婚して下さい…」目も合わせずに言う美都。
沈黙を引き裂くように後ろから美都の母親が駆けてくる。
「とりあえず家に帰ってから話し合おう」
美都にそう言ってから、かけて来る母の方に振り向く涼太。
「お久し振りです、ちょっとケンカしてしまって、もう帰りますので」
涼太が母と話している間、美都はうつむいて黙っているだけ。
そんな二人に笑顔で手を振り、見送る母。
あの、と涼太は声を掛ける。
「このワンピースお義母さんにお借りしたんですか?」
あ、いーのよ!持ってっちゃって、と微笑む母。
「いえ、お返しします、この人には似合わないので」
そう言うと無言の美都を連れて歩き出す。
「似合ってると思うけどねぇ?ま、ちょっと変わった男だよねぇ」
母はそのまま独り言のように続けた。「お似合いだけど」。
二人は黙って母に背を向け、歩き続ける。
ー二人は今、谷底ー

Section.16

亜胡をおんぶ紐で抱っこし、スーパーで買い物をしていた有島麗華。
横から声を掛けられる。同じく赤ん坊を抱っこしている女性だった。
先月同じマンションに引っ越してきた、名前を星野といった。
しばらくたわいもない世間話をしたのち、その女性は麗華にお友達になってもらえませんか?と控えめに微笑んだ。
夜、夫の有島光軌にそのことを話す麗華。有島はご機嫌に亜胡と遊んでいる。
麗華と友達になりたいと言った星野のことを「奇特な人」だと笑った。
そういえば友達と言えば、あなたの同級生のワタナベさんは最近どうしてるの?
どうしてるもなにも、しらないよそんなの。
麗華の問いにぶっきらぼうになる有島。
「あ、私、わがまま言いたいことがあった。」
思い出すように言う麗華。
「半日、いや、数時間だけ「お母さん」を忘れたい。美容院にも行きたいし、少しおしゃれして光軌と二人で外食とかしたいなぁ」
それを聞いた有島は顔いっぱいに笑みを称えてそうしよう!と喜ぶようにはしゃいでいる。
「なんで光軌が嬉しそうなの?」
優しい笑顔で嬉しそうに自分に微笑んでくる有島に、麗華は小さい声で一人呟く。
「ばかね…」

久し振りに涼太とのマンションに帰ってきた美都。
部屋じゅうに漂う腐ったワインの匂いに胸が焼けるよう。
「ワインをぶちまけてね」
一人でよく喋る涼太を置いてきぼりにして、美都は寝室の扉を開ける。
洗濯物を運んでいる美都の後ろで、美都が持って帰ってきた荷物の中に陶芸教室で作ったビアグラスや蕎麦ちょこを見付ける涼太。捨てたいと言う美都とダメだと追い掛ける涼太。袋から蕎麦ちょこが飛び出し、床にゴロゴロ鳴って転がり落ちる。
「ほら、割れやしない。ね?」
イライラしてくる美都。
変な匂いのするソファーに、カーペットに、床に、壁に、天井に。このおかしな空気の充満する家に。

よそ行きの服に身を包んだ麗華はインターホンに反応し玄関の扉を開ける。
先日「友達」になった同じマンションの星野だった。
これから有島と出掛けるため、部屋には有島の母と妹が来ていた。賑やかそうな様子に気付く星野。
今日はこれから出掛けるので子供を見てて貰うと話す麗華。
旦那さんとデート羨ましい!と微笑む星野。
クッキーを焼いたのでお裾分けに、とラッピングされた袋を差し出す。お礼と謝罪を伝え、扉を閉める。
亜胡と賑やかに遊んでいる有島母と妹。
麗華が手にしているラッピングの袋をみて「ルミルミのクッキーだぁ」と喜ぶ。うちの近所で人気のお店の、やっぱりそうだよ!美味しい~!と盛り上がる妹たち。それから亜胡に気付かれないようにそっと家を出て行く麗華。
そして、正装した有島と麗華は2人きりでちょっとおしゃれな個室焼き肉へ。
亜胡しゃ、どうしてっかなぁ?
有島が呟く。考えてたら楽しめないわよ、と麗華。
肉食ってるだけなのに、すごい悪いことしてる気になるな!と笑う有島。
麗華はそっと呟いた。
「男の人は悪い事が好きだものね」
なにも言わないでいる有島に、麗華は続ける。このあと、光軌がいつも行く所に連れてって、と。
そして二人は眺めの良い展望ホテルのバーに。ここ高いんじゃない?、と夜景を覗きながら麗華。
「さぁ、初めてだし。見栄張った」
「バカね、いつも行くところって言ったのに」
ここから麗華はゆっくりと語り出す。
私あなたと結婚しなかったら、こんな所一生来なかったろうな、本当、一生ない、ありがとう。自分がこんなふうに結婚して子供を産んで、平穏な家庭を築けるなんて思ってなかった。母が、私のこと、自分みたいにならないで良かった、って光軌に感謝してた。母とは正反対の、可愛くて綺麗でわがままな女が大好きで、母をいつも泣かせてた父…。
「え?」
「亜胡がいて幸せ、亜胡を私にくれてありがとう」と、麗華は言った。
酔ってる?
「ううん、どうしてそんな顔してるの?」
顔がひきつっていく有島。
待って、麗華、なんでそんな話…
「幸せだからよ。あなたはなぜ泣きそうな顔をしてるの?なにが、つらいの?」
意思に反して、歪んでいってしまう表情を隠すように、手で顔を覆う有島。ばかだった、と小さく呟いた。
「軽いノリと、昔の思い出…」
有島はゆっくりと口を開く。
「お前が俺に感謝を言うたびに、いつも違和感があった。ありがとう、いてくれて幸せ、助かった、いつもありがとう。違和感の原因は、俺が頑張ってないからだ。お前に対してだけは、俺は自然なんだよ」
黙って聞いている麗華。
「だから、だからな、俺はばかだったけども、なにがあってもお前以外は…」
「光軌、なんの話?」
顔色一つ変えない麗華と、時が止まったような、血の気が引いて行くような、顔の有島。
え?え…
「何を言ってるの? ばかね」
し、ってんだろ…?
「なにを?」
口元を少し緩ませる麗華。
「ワタナベ」という女が訪ねてきた。後日、私の前に二度現れた男も「ワタナベ」といった。あなたは私に聞かれて困る事があるとちょっとフリーズする。私が知っているのはそれだけよ、帰りましょう。
フリーズする有島。
家に帰って来た二人、椅子に座ったまま動かない有島。亜胡の様子を母や妹から聞いている麗華。
妹に話し掛けられ慌てて椅子を動かした有島の音で、寝ていた亜胡が泣いて起き出す。あ~あ、という声が漏れる。
慌てて有島は亜胡を抱き上げ、あやす。ごめんな、よしよし、いつもそうしているように優しく亜胡を撫でる。
無言でやって来た麗華は亜胡を有島から取り上げる。冷たい表情をした麗華は有島に吐き捨てるように言った。
「手を、洗ってください」

一方、マンションの部屋で離婚届を見詰める涼太。その涼太を隣りで見ている美都。
「離婚して、また1からやり直すことも可能だよね」
覚めた瞳の美都は遠くを見据えたまま答えた。
「1%くらいの確率でね」

Section.17

美都は一人で部屋探しに来ていた。不動産屋の男性といくつかの部屋を見て回る。
涼太とのマンションに帰って来る美都。
昨日の離婚届の用紙の渡辺涼太の欄に記入されているのは、何故か「渡」のさんずいのみ。
ご飯なんて食べたくないのに、キッチンに立つ美都。
夜、涼太が帰宅。良い匂いがすると喜んでいる。失敗したの、とそっけなく返す美都。
「離婚届さんずいしか書いてないわよ」
部屋は決まったの?、と涼太。
「安いからって変な物件掴まされないでね」
お化けとか?そんなんあるの?、と目も合わせず会話する美都。
「あるよ、人の情念がある限り、そういうものは沁みついて行くんだから」
怖いんだよ!!!
一人心の中でイラつきながらツッコむ美都。
夜、寝付けずにリビングに行くと涼太がソファーで起きていた。
あたしがソファーで良いのに、美都がボソッと呟くと、涼太は声を上げた。
「なに言ってんの!こんな汚れたところにみっちゃんを寝かせられないよ!」
この人はなぜ今の今になっても、こんなことがこんなふうに言えるのか、分からない。
翌日、リビングに置いてあった離婚届は少しだけ記入が進んでいた。さんずいから「渡辺」にまで進んでいたのだ。
しかしその「渡辺」には「辺」に何故かしんにょうが足りなかった。
「…………」
美都の勤務先の眼科の場面。待合室で大騒ぎする子供たちがいる。
イラついている美都に気付く受付の同僚。そんなに子供嫌いだったっけ?
「子どもいたら、なにか変わってたのかなぁ」
美都はポツリ。
有島くんにはもう会わない、美都はうつろに考え始める。
有島くんに子供がいなければ…、いやいやそもそも子供が生まれるきっかけだったんだった…
「…………」
今日、なんがつなん日だ?

ドアホンが鳴る。扉を開けると大きな声でやって来た同じマンションの星野だった。
亜胡がお昼寝中だから、と麗華は星野を制する。
「うちも今ぐっすりなんで来ちゃいました。今ちょっといいですか?」、と星野は言った。
え?でもなにがあるか分からないから不安じゃない?、と麗華。星野は続ける。
「でもストレス溜まりませんか?あ、かっこいいご主人と外食できるんですもんね、発散できますよね」
「あのね、」
麗華は星野を止めて言う。
「いったん戻って、風愛ちゃんが起きてから、来れるようだったらメールしてくれる?私もちょっと家の中色々いまのうちにやっておきたいし」
そう言うと、じゃあ戻ります、と玄関を出て行く星野。帰り際にもう一度声を張り上げる。
「そうだ!今朝初めてご主人間近で見ちゃいました!ほんとイケメンですよね!どうやってゲットしたんですかぁ~?」
そういう話も、またあとで、そう言って麗華は玄関の扉を閉めた。

夜、会社の千葉と飲みに来た有島。
家に帰りたくないのでは、と見透かされ、バレたんですか?と質問する千葉の顔はちょっと楽しそう。
しかも自分から言ってしまった、と話す有島。
それ一番やっちゃダメなやつですよ、と千葉。許してもらえるとでも思ったんですか?
女は恐ろしい、と呟く有島。バイキンかよ、恐ろしいね、千葉くん…。
お店のテーブル席で小さくなっていく有島に千葉が声を掛ける。
さっきからこっちをずっとガン見してるあの女の人も怖い、と。
有島が顔を上げると、そこには自分を睨んでいる女性。
「有島だよね?」
その女性は言った。「飯田香子、中学一緒だった「三好」の…」、と。

家に帰ると、涼太がお蕎麦をゆでていた。
いつまで一緒にご飯食べられるか分からないから、この蕎麦ちょこ使おうと思って、いいよね?
「書いた?」
涼太の話を割る美都。
「名前、書いた?」
見せて来た離婚届の名前の欄には「渡辺 涼犬」。
「…………」
蕎麦をゆでている涼太の後ろ姿に向かって、美都は言う。
「私、妊娠したかもしれない」
動かない涼太。
「私、妊娠したかもしれない」
やっと涼太と目が合う。
「え?」、と涼太は言った。
「忘れてたんだけど、生理、ない」
「忘れるもんなの?」
美都は心で思っていた。多分、有島くんとの…。前の、前の時あたりの…。
「そ、そうか…そう…」
ほら、もう、これで、私のことを見限ることが出来るはず…
歩きだした涼太は予備の新しい離婚届を破き始める。
「なにするの!?」
「みっちゃん、それは僕の子だよ」
涼太は背を向けたままそう言った。
「そんなわけないじゃない…」
「あの男にはもう頼れないんでしょ?大丈夫だよ、みっちゃん。僕が守るよ、僕の子どもとして」
美都は震えだす。
早く…
一刻も早く、アパートを…
一刻も早く!
「あんたのせいでしょうが!」香子に責め立てられる有島。
ああ、そうだな、その通りだ、有島は香子に言う。
香子ちゃんはいつも正しいよね、俺らとは違うもんね?
「同じ立場にないと物事の捉え方が違うから分からない、すべての感情は経験を伴わないと分かり得ない!という考えはすごく幼稚で、逆に多角的にモノゴトを見られないんだと思うんですが、どーですか?」
うるせぇよ、そんなことどうでもいいわ、吐き捨てるように言う有島。そして去ろうとする香子の背中に続ける。
でもさ、香子ちゃん、あんたのいい人が、人にもいい人じゃあないだろう。いい人でも嫌だろう、いやなやつでも嫌だろう。おれあ、あいつの旦那は、こわいよ…
きっと…
愛情をもって…
美都を強く見詰め、肩を掴む涼太。
「育てられるから!」
恐怖で力が入らない美都。
オートロックどころか、床の抜けそうなアパートでもいいから…早く…一刻も早く…。

Section:18

涼太の幼少期の回想のお話。
僕の母はなんにも出来ないひとだった。でもひとつだけ飛び抜けてできる事があった。

母方の祖父の敷地内に家を建てた僕たち家族。
祖母は35歳で病気で他界し、祖父は付かず離れずの一人暮らしを続けていた。
再婚することもなく、男手一つで母を育て、祖母との思い出のその家でひっそりと過ごしていた。
僕の名前はその祖父がつけたんだった。
冷たくなった祖父を見つけたのは10歳になったばかりの僕だった。
僕の母・姿子は大号泣だった。
涙で顔を真っ赤にはらしておとうさぁ~ん!と泣き叫ぶ、等身大で生きる女性だった。
世間知らずで擦れてない、泣いていたと思ったら、怒っていたと思ったら、ケーキのお土産でコロッと機嫌がよくなったりするような、そんな自由なひとだった。父も意識的に昔より早くに帰ってくるようになった。そのお陰か、あの大号泣は嘘だったかのように母の立ち直りは早かった。
くそマズイご飯を作る母に、父はいつも微笑んで優しく接していた。
父は心の広い人だったように思えた。
洗濯物がシワシワになっていようと、お気に入りの録画の上にバラエティ番組を重ねられてしまおうとも、口数少ないながらも、常に笑みを称え、母を見詰めていた。愛し合うことは素晴らしい。
ある日、珍しく家を掃除したという母。
この人のいう「掃除」は物を違う場所にずらしていって空間を作るという方法で、バラバラに散らばっていたものが一点に集められてまとまっているのでその時は片付いたように見えるけど、物を使って動かしてしまえば、すぐに元の木阿弥。子供ながらに僕はこの人はバカなんじゃないかと思っていた。とても一人では生きていけないだろう、と。
中学に入ったころから母の様子は変わってきた。食欲も落ち、ふさぎ込むことが増えた。
顔いっぱいに自由に笑うあの母はいなくなっていた。
病名が分かったときにはもう手遅れだったという。
父の嘆きと絶望は直視できないほどで、この人が先に死んでしまうのでは、と思えるほどだった。
姿子、死んではダメだよ、姿子、僕は毎晩寝付けぬ夜にそう心の中で繰り返していた。神というものにも祈った。
「姿子」、と呼んでみると、みぞおちのあたりが苦しくなった。
姿子、死ぬな!!

母は大好きなおとうさん(祖父)と共に神さまの所へ行った、らしい…。
父はその後、教会に通い、洗礼を受けた。
そしてそれまでにも増して、穏やかになった。穏やかというより。
口数少なく、微笑みを称え、穏やかにひっそりと暮らす、この人を前にもどこかで見た事がある。
「…………」
祖父だった。
姿子の父だった。
祖母は深く、深く、愛されていた。
母もまた、そうだったのだろう。
再婚もせず、母の思い出が残るこの家でひっそりと、穏やかな笑みを称えながら。
何も出来ない母の、唯一飛び抜けてできたことは、「愛されること」。
その一点においては母もきっと幸せだったんだろう。
だから、だから僕は、きっと、君をー

Section.19

「愛情を持って、育てられるから」
あぁ、ダメだ。これは無理だ。
私と有島くんの子どもを? この人が育てる? 自分の子として? 愛情をもって?正気?
あぁ、これは、本当に無理なやつだ。
ごめんね、私があなたをそんなふうにしたのね。
でも、もうだめだ。もうほんとうに…
「無理です。」
美都は夫の涼太に肩を掴まれて、口を開いた。
「本当にそんなことを考えてるなら、…あなた、頭、おかしい…」
お蕎麦をゆでるためのお湯が沸き立つ音が静かな部屋に響く。
「…え?そうなの?」
涼太の反応は意外なものだった。
「あ、でもおそばは食べるでしょ?1分で茹でれるから、待ってて」
こんなことになってもまだ、美都に優しい笑みを向ける涼太。
美都は思った。1分で出て行こう、と。
全部放り投げて、器も割って、あなたが振り向いたら私はもういない。
怒る? 嘆く? ワインのように、ぶちまけるの?
涼太は茹で上がったお蕎麦を持ち、テーブルに振り返る。
美都は同じ場所に立っていた。
座って、と涼太に促され、美都はお蕎麦を挟んで向かい合い、座る。
一人食べる涼太と、動かない美都。
「で、確定なの?」
そう言えば検査をしていなかったことを思い出す美都。
まさか、してないの?嘘でしょ?しようよ、と涼太。
何も言わない美都。
涼太は一人で話し続ける。
買ってきてあげるよ、検査薬。病院も付き合うよ、1人じゃ心細いでしょ?不安でしょ、大丈夫だよ、みっちゃん。
涼太の言葉に何も返せない美都。
そうね、不安ね、だってどうするの、子供なんて、私の人生どうなるの?
美都は言葉を出せず、心の中でぐるぐると考えている。
でもそうか、私はこれから、この子をよすがに生きて、これからをー
沈黙が続く中、お蕎麦をゆっくりと食べ始める美都。
だめだ、だめだだめだ、私も頭おかしい…
目の前の涼太はお蕎麦を食べながら、涙を流している。その涙に気付く美都。涼太は言った。
「やっと、使えたね、一緒に…」

場面は変わり、有島家。
有島に笑顔を向ける亜胡に父性本能を爆発させる有島。
いい天気だけど、どこか行く?と麗華。
公園か買物か迷った挙句、思い切って動物園デビューしようという有島の発言で、早速出掛ける事に。
エレベーターで星野に会う。お出掛けいいなぁ、とはしゃぐ星野。
ちょっと動物園あたりに、と麗華。
そこへ、一緒にどうですか、と何気なく言う有島。
大喜びする星野。主人に聞いてきます、と大騒ぎで部屋に戻って行ってしまった。
「…………」
荷物を車に詰め込む有島家。社交辞令のつもりだったんだけど、という有島に麗華はぼそり。
「ひとんちの旦那って、面倒なのよねぇ…」
「…………」
結局2組合同「動物園デビュー」に。
亜胡の写真を大騒ぎしながら撮りまくる有島と離れた場所で一人携帯をいじっている星野夫。
星野さん撮らないんですか?と夫に声を掛ける有島。
「どうせなにも分かっちゃいませんよ、動物園なんてまだ早いのに。すみませんね、うちのと仲良くして頂いてるみたいで」
星野夫は言った。
「いえ、なんか色々、おもちゃとか頂いたりしてるみたいで、こちらこそ」
有島がそう返すと、星野夫はちょっと笑ったように言う。
「なにかあげれば仲良く出来ると思ってるんですよね。あいつ頭悪りいからなぁ。その点、おたくの奥さんは落ち着いていて賢そうで、多分憧れちゃってるんじゃないですかね」
一緒にランチにする有島家と星野家。
たわいもない世間話をするも、時折口を挟む星野夫は口癖のように、ことあるごとに妻にバカ、バカでしょう?と繰り返す。
黙って聞いている有島と麗華。
こんな母親じゃあこの子が可哀想だぁ、という星野夫の言葉を割るように、有島は突然声を上げる。
「母親をバカ呼ばわりする父親を見て育つのも、結構可哀想だと思いますけどね!!」
麗華、帰るぞ!
そう言って立ち上がる有島。
戻った車の中で、麗華はポツリと言う。
「あなたはあの場から去ればそれでいいけど、私にはこれからも付き合いがあるんですけど?」
悪かった!運転席に座った有島は頭を下げる。
「勝手に誘って、勝手にキレて、悪かったです!」
しばらく無言ののち、有島は小さく呟く。
「あんな父親でも、俺よりはいいのかな…」
あれで浮気してたら完璧ダメね、と麗華。
麗華、俺がお前を選んだ理由、ね、と、有島は言葉を選ぶようにゆっくり言葉を紡ぐ。
麗華、って、呼んだときのおまえ、クールで冷静な優等生の、真実を知ってるのは俺だけ。自分の格好悪いところを見せられる唯一の人。つらいときも、どんな時も、きっとずっと一緒にいられると…
有島の言葉の最中に笑いだす麗華。
「結婚式の誓いの言葉みたいね、あはは!」
急に恥ずかしくなる有島。
「ねぇ、光軌?」
今度は麗華が話し出す。
私、今つらいよ。つらい私と一緒にいて息苦しくない?このままずっと「つらい私」と一緒にいられる?ねぇ、光軌。
「どうしてずっと嘘をつき通してくれなかったの?」
「だって責めるだろう」
感情的になって行く有島。
「責めてない、本当の事を言ってるだけ」
「それが俺には無理なんだよ!」
「無理?どうして?」
「どう、どうしてって…」
「つまり、光軌は私とはもう、無理、ということ…」
「違う!!それは絶対に違う!!」
叫ぶ有島の声に亜胡が泣き出す。

翌日、玄関先で頭を下げる星野。たがいに謝り合う麗華と星野。
お詫びにと、美味しく出来たというから揚げを差し出す星野。
この間も売り物みたいに美味しかった、と麗華は受け取りながら言った。
星野の顔が曇る。
「売り物だとしたら、ダメなんですか?」
「ダメじゃないわ、コンビニの総菜も美味しいし」
私、なにも出来ないから、変な所で見栄を張りたくなっちゃうんですよね。誰かに褒めてもらいたくて…
肩を落とし、俯きながらそう話す星野に、麗華は返す。
「つらいって言えばいいのよ、ご主人に。一生懸命やってるんでしょ?」
そんなこと、通じない…、私は、私には…。
声が震えている星野。
「有島さんはいつも自信たっぷりですよね…正しい事をいつも言えるんでしょうね…」
射貫かれるように突き刺さる言葉に、動けなくなる麗華。
黙っている麗華の後ろに大きなトランクケースが見えた。
「あ、旅行ですか?」
星野の問いに、麗華はなにも答えなかった。ただ、静かに微笑むだけだった。

一方、美都はなにもない小さな部屋に、小さなカバン一つと寝転がっていた。
畳の上には検査薬。その妊娠検査薬の結果は陰性。
目を閉じる美都。
ー私、今、からっぽー

4巻《完》

ここまでが4巻でした!
もうドラマも結構追いついて来ていますねぇ。
まだまだ原作は終わっていませんが、どうなって行くのでしょうか。
自分はまだ5巻は読んでいないので、次はまだまだ書けそうにありません(笑)
リアルタイムに結末を楽しみたいと思います!
でも個人的に有島と麗華にはダメになって欲しくないなぁ~!

ちなみに、他の巻のあらすじも書いていますので、こちらも合わせてどうぞ~

https://gotan.club/2017/02/25/いくえみ綾『あなそれ』実写ドラマ化!原作漫画/

https://gotan.club/2017/03/08/いくえみ綾実写ドラマ!『あなそれ』原作漫画2巻/

https://gotan.club/2017/03/15/いくえみ綾実写ドラマ『あなそれ』原作漫画3巻の/